トーキョーハーバー

コンサルティングの現場から

予算策定プロセスに関して

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多くの大企業では予算管理プロセスにかなりの工数が割かれている印象がある。大企業の典型的な策定プロセスとしては下記が挙げられる。
①予算本社の主管部門(一般的には経営企画など)が各部門にガイダンスを発信
②各部門内でガイダンスを基に詳細化
③主管部門が集計、全社目線で適宜修正を各部門に依頼
④各部門内で修正依頼を反映・修正
⑤主管部門および経営層が最終化・承認

 

上記は概要であるが実際にはより複雑になる。例えば売上を担う販社の場合は地域統括会社と各国販社があることが多く、その場合は②、⑤のプロセスでは地域統括会社と販社との擦り合わせが必要になる。また製造業の場合は③から④のプロセスにおいて製造部門が作りたい製品と販売部門が売りたい製品が必ずしも一致せずにそれらの整合を取るのは多くの企業でかなりの工数が取られる。場合によっては詳細までは擦り合わずに製造部門と販売部門で異なる数字のまま予算が最終化してしまう場合もある。(無論、これらはあくまでも一般的な例であり、会社によっては本社がかなりの強権を発動させてトップダウンで決めている会社もあるだろう。)

 

このように大企業であればあるほど一般的には予算策定プロセスに係る工数が増大し関係部門の負担が大きくなる。そのため業務改善においては管理部門ではこの予算策定プロセスの改善は検討対象になることが多い。確かに外部から見て、あるいは実際に業務を担っている個別担当者から見て予算策定プロセスには非効率に映ることも多いが、個人的にはこの予算策定プロセスの改善にはかなり慎重に取り組むべきだと思っている。

 

テクニカルな理由は後述するが、本質的には予算策定プロセスは単なる数字作りではなくある種の大組織内のコミュニケーションプロセスになっており、また政治的・感情的な納得醸成のプロセスになっているためである。予算策定のプロセスにおいては公式・非公式に様々なコミュニケーションが生じる。それらを通じて本社からは会社の方針などが明示的・非明示的に伝えられる、また「創って作って売る」現場からは現場目線での課題や問題意識が共有される。またコミュニケーションを通じて部門間での連携も生み出されるのである。また上述のプロセスにおいては予算は各部門が上申できる機会が与えられているために政治的にも「他人が勝手に作った数字」とは言えずにコミットせざるを得ない仕組みになっている。不満があればそれを公式に表明する機会は(実際に行使されるかどうかはさておきプロセス上は)存在するのである。また感情的にも必要に応じて不満を伝えられる場があることは大事である。組織は論理的だけでなく感情や政治も考慮しなければ動かないのである。そのため予算策定プロセスは予算という媒体を介した組織間コミュニケーションと見ることができるのである。

 

また予算という個人や部門の評価に直結する指標を扱っているからこそ付随的なコミュニケーションにも真剣になる、という側面もある。例えば企業の本社が販社に対して戦略を説明したとしてもそれだけでは販社の行動が変わることは少ない。しかし戦略製品の予算を上げ、代わりに他の製品の予算を下げたとしたら販社に対する戦略は伝わりやすくなる。結局のところ特に戦略などは個人や部門からすると自分自身への関係性が明確でないと伝わらないのである。

 

以上の理由から予算策定プロセスそのものが一見無駄に見えたとしても、そのプロセスが担っている隠れた役割も理解する必要があるのである。それをせずに安易に簡素化しようとすると思わぬところで問題が発生するだろう。

 

また現実的な問題として予算は上述の通り評価に直結し、(仮に金銭的な報酬はさほど変わらなかったとしても)関係者がかなりのマインドシェアが割かれているため、生半可な理解で効率化をしようとしても物事は変わらないだろう。これは外部のコンサルタントであっても効率化を推進する本社部門であっても同様である。

 

もちろんこのように予算策定は「重いプロセス」であるからといって放置するべきである、と言いたい訳ではない。もしも論理的な、あるいは政治的な、さらには感情的なコミュニケーションを担っていることを理解してもなお無駄がある場合もある。財務部が作った複雑怪奇なマクロの入ったエクセルから脱却しITツールなどを活用して効率化できることも多いだろう。プロセスの簡素化の余地もあるかもしれない。しかしいずれにせよそのような状況ではCEOやCFOクラスの経営者が意思をもって取り組むべきなのである。

 

ただ「重いプロセス」である予算策定プロセスの多くの企業が抱える本質的な課題はその効率性にはないと私は考えている。「重い」が故の本質的な問題は予算が硬直化しやすい事にある。ビジネス環境の変化が速くなればなるほど、論理的には外部環境に応じる形で経営資源の配分や注力するべき事業の予算配分も機動的に変えるべきである。そして多くの企業の業務プロセスに鑑みると、その中核となるのは予算策定プロセスであることが大半である。しかしこの予算策定プロセスが「がんじがらめ」になっており、部門間での様々な力学の結果として前年+/-数パーセントの範囲でしか動かないのであれば大いに問題である。そして実際にそのような場合が多い印象である。このような状態では外部環境の変化に対応できない。新しい需要を捉える特化型の新興プレーヤーやトップダウン型の組織などで機動的に動ける競合には対抗できなくなるだろう。

 

前年+/-数パーセントの予算から脱却するためには技術的には以前に少し述べたZBB (Zero Based Budgeting)などの方法があるが本質的には経営が主導する必要がある。既存の予算策定の枠組みを用いるならば論理的には本社が予算のガイダンスを出すステップ①で大きな予算のメリハリを付ければ実現可能であるが、一般に大きな権限がない本社部門が各機能部門に通達するのは現実的には困難なことが多い。組織は基本的には昨日やったことを今日やり明日もやり続ける設計になっており変化を嫌い、予算もその範疇に含まれる。そのため大きな変化を実現しようと思ったらCEO、予算を主幹するするCFO、あるいは経営企画を主幹するCSOなどがかなり強力なリーダーシップを発揮するべきなのである。

 

予算策定プロセスは大半の企業に存在するがそれらに関わるのであればこのような理解をしておくべきだと思っている。