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アドバンテージマトリクスに関する雑感

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アドバンテージマトリクスというフレームワークがある。当該フレームワークは1981年にBCGが同社の伝説的な刊行物であるPerspectivesを通じて提唱した概念である。本エントリではこのアドバンテージマトリクスにまつわる話をし述べていきたい。

 

このフレームワークは1981年に生まれたものの日本では90年代半ば頃まで流行っていた印象である。このフレームワークはBCGのプロダクトポートフォリオマトリクスと同様に2x2のマトリクスで業界を分類したものである。横軸は「優位性構築の可能性」、縦軸は「競争の戦略変数の数」である。そして実際には売上高を対数軸に取り、縦軸にはROAを用いたグラフに同一業界の個別企業をプロットすることでそれぞれの象限で散布図に一定のパターンが見られる、というものである。

 

具体的にはマトリクスの右下は規模型、右上は特化型、左上は分散型、左下は手詰まり型と呼ばれる。規模型であればROAは規模に比例し、分散型は規模に関係なくROAが様々な位置にプロットされ、左上は規模が小さいと様々なROAが存在するが大きくなるに従ってROAの上限が低くなるものであり、左下は規模によらずROAが低いというものである。規模型の典型は自動車業界など、特化型は製薬業界など、分散型は外食業界など、手詰まり型はセメント業界など、と言われている。また分散型の典型であり規模を追えなかった業界であったがセントラルキッチンを導入することで分散型のビジネスから規模型のビジネスに転換できたというV字効果もこのフレームワークの説明時には併せて語られることが多い。(概要は他のサイトを参照してもらいたい。)

 

このアドバンテージマトリクスからはBCGが開発した偉大なフレームワークである経験曲線、プロダクトポートフォリオマトリクスの流れが透けて見える。経験曲線とはある製品の累積生産量が20-30%低下する、というものであり1960年代にBCGの創業者のブルース・ヘンダーソンが提唱したものである。この分析によりどれだけ生産すればどれだけのコスト競争力を構築できるかを予測できたため、当時は極めて協力な分析ツールとなったとされている。この経験曲線の概念はその後のプロダクトポートフォリオマトリクスにも含まれている。このフレームワークの横軸は相対シェアを取られており、この背景にはシェアが高いと累積生産量は多くなり、結果的にコスト競争力が構築できるという思想が存在している。アドバンテージマトリクスにおいても同様であり優位性構築の可能性という概念を具体化したx軸は売上高を対数軸で用いていることからも、やはり経験曲線の発想が透けて見えるのである。

 

このアドバンテージマトリクスは業界理解をする上では有用な考え方であることは間違いないが、一方で経験曲線やプロダクトポートフォリオマトリクスほど浸透しなかったことも事実であるといえるだろう。その理由はいくつかあるが、本質的には企業の行動にほぼ結びつかないことにあると考えている。規模型の業界に「御社の業界は規模が重要なので規模を目指しましょう」と提言しても、もちろん規模拡大以外の施策は劣後するという多少の意味合いはあるにせよ、クライアント企業側としては言われなくてもやっていることと言えるだろう。手詰まり型の業界に対してもそれを指摘してもやはりポートフォリオ論的な意味合いはあるにせよ、特に専業プレーヤーに対して指摘してもほぼ無意味だろう。分散型の業界であれば「勝ち方は色々とあります」ということしか意味合いはなくほぼ示唆はないだろう。「分散型」は強いて上げるならば規模は追わずに別のブランドを立ち上げるべき、という意味合いはありかもしれない。(アパレルブランドの旧ポイント、現アダストリアは一つのブランドを一定の規模以上に大きくはせずに新しいブランドを立ち上げる、というポートフォリオを組んでいるのはアドバンテージマトリクスの考え方を用いれば分散型業界の典型であるアパレル業界においては正しい戦略といえるだろう。)

 

プロダクトポートフォリオマトリクスは撤退、投資、キャッシュカウ化といった極めてわかりやすい経営判断が出てくるのに対してアドバンテージマトリクスはそこまで分かりやすいアクションが出ずに業界理解のための類型化の域に留まっていることが普及しなかった大きな理由であると理解している。

 

また経験曲線の有用性が時代とともになくなってきたことも一つの理由としてはあると考えている。経験曲線が提唱された60年代は比較的モノを作れば売れる時代であり、コストの重要性が重要であったが、80年代にもなるとコストよりも製品・サービスが高度化し、製品・サービスそのものの価値がコストよりも大事になってきたことが挙げられる。プロダクトポートフォリオマトリクスも同様であり、そのため実践の場では必ずしも相対シェアを用いずに相対シェアの上位概念である自社の競争力を示す他の軸を用いられることが多いのである。また経験曲線に対する批判として多く、そして有効だと思われるものとして「経験曲線が当てはまる業界は案外多くない」というものがある点は留意しておいていいだろう。(これは余談であるがブルース・ヘンダーソン氏自身、経験曲線を提唱してからだいぶ時間が経ってから「経験曲線は現象であり、そのメカニズムは必ずしも明らかになっていない」といった旨の論文を出していると記憶している。経験曲線はあくまでも経験則的な現象であるのである。)

 

加えてアドバンテージマトリクスの場合は「優位性構築の可能性」という極めて抽象的な概念を一旦は規模を用いているが、仮に規模が必ずしも適切でなくなった場合には他に代替できる上手い指標が見つかりにくいというやや実務的な問題もあると私は考えている。

 

本質的にはアクションに結びつきにくいことによりアドバンテージマトリクス自体はその源流である経験曲線やプロダクトポートフォリオマトリクスほどは普及しなかったが、それでも私はこの根底にある思想は有用であると考えている。「競争優位性は築けるのか?」「業界の戦略変数はどれだけあるのか?」「規模は効くのか?」「何型か?」といったレンズで企業や業界を捉えるのは取っ掛かりとしては十分に今でも有用であろう。私自身もアドバンテージマトリクスの考え方では特化型に分類されるものの規模がないと戦えないと思っていたある企業に対して、この考えを活用して「規模を追う以外の方法でも競争優位性を築ける」といった議論をするために用いたこともある。アクションに結びつきにくくても活用の仕方は存在するのである。特に提案書や議論の序盤などでの取っ掛かりとしては実用的であると思っている。またクライアント企業との議論には用いなかったとしても何型のビジネスかを意識しながら業界を捉えてみると理解が深まりやすい。

 

プロダクトポートフォリオも同様であるがフレームワークはそれをそのまま当てはめるのではなく、その根底にある思想を理解することなのである。上述の通り実践の場において「教科書通り」の軸を用いられることは少なくて、上位概念を捉えて当該状況に適した軸を見つける必要がある。またフレームワークを用いるのであれば、その歴史的な背景やそのフレームワークの限界ないしは批判も認識しておくことが望ましい。深く理解せずにフレームワークを漫然と使用するとそれにチャレンジされた時に論理的に説明できないリスクが生じてしまうのである。