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コンサルティングの現場から

「株主か顧客か、英BAの悩み」に関する雑感

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最新の日経ビジネス(2020年2月10日号)の記事でBritish Airwaysの社長の退任に関する記事があり色々と考えさせられた。

 

当該記事は「株主か顧客か、英BAの悩み」というものである。要約すると「同社を20年近くCEOとして経営したパイロット出身のウォルシュ氏がCEOを退任する。同氏は株式市場からは好意的に受け止められている一方で、サービスの低下やストライキの発生、顧客情報流出で250億円近い制裁金が課せられており、顧客目線では必ずしも評価は高くない」といったものである。

 

まずはファクトを確認してみる。株価はBAの親会社であるIAGの株価を見ると直近10年で株価は5.5倍になっている。インデックスが2.5倍であること考えると株式市場からの評価は上出来と言っていいだろう。また事業という観点でもここ10年で売上高は1.6倍、EBITは5.0倍で直近5のEBITマージンは安定的に10%を上回っている。ボラティリティの激しい航空業界では上出来と言っていいだろう。

 

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一方で記事によると航空会社の格付けではBAは過去8年間で最高17位、最低で40位となっており、またストライキで1,000便以上が欠航したり、ドイツ行きのフライトが誤ってイギリスに着陸したりするトラブルもあったようである。更には顧客情報を50万件流出させる事案があり、制裁金を250億円支払っている。また同記事によるとBAのサービスに不満を持つ顧客は多いが代替となるLCCをはじめとする航空会社は必ずしも時刻や路線の観点で利便性が高くないためにBAを使わざるを得ない、とのことである。そのため株主と顧客のどちらを重視するかの判断に課題があるとあったのである。

 

これらの記事に書いていることが真とするならば、本記事が提示している課題は「企業価値原理主義」の立場では何ら課題ではない、ということになると考えられる。企業の役目は企業価値を長期的に最大化することであり同社は実際にそれをほぼ実現できているため概ね問題がないと言えるのである。サービスに関してもコストを掛けて過剰にするのではなく「顧客に選ばれるだけ十分な」質にすればよく、同社はそれができていると言えるだろう。情報流出に関しては確かにそれは課題であろう。しかしそれも数十億円を掛ければ避けられたと見られる、もしこの仮定が正しければ同社は200億円程度の企業価値は損なってしまったことになる。これは企業価値を最大化するために必要な情報セキュリティを十分に掛けていなかった、と見ることができるだろう。

 

資本主義の世界においてはある企業の製品・サービスを買うか否かの選択は顧客にあるのであり、同社の売上高は伸びておりサービスの質は落ちていたとしても顧客からは選ばれ、結果的に利益は上がっている以上、同社は正しいことをやっていると言えるだろう。もしもサービスに不満があるならば選ばなければいいだけなのである。

 

もちろん公共性の観点はある。外食業界などど異なり航空産業は参入障壁が高く物理的な滑走路の制約もあり公共性も高いために、安全性や正確性などが犠牲にされるべきではない。しかしこれは結局のところは政府の仕事であり個別航空会社の役割ではないだろう。政府は各種制裁金や滑走路の使用料などを導入し市場のメカニズムに公共性をないがしろにした場合のコストを埋め込むか、あるいは何らかの規制を導入するかすることで公共性を担保するべきと言えるだろう。今後はより重要になるであろう環境問題でも同様だろう。そして個別企業はその枠の中で企業価値を最大化することに専念すればいいのである。最近はESGという観点で個別企業もESGであることが求められるが、これも原則としてESGを追求しないと回りまわって収益に跳ね返り企業価値が毀損される、というメカニズムが働くことが結局のところは一番効くと考えられる。

 

以上は企業価値原理主義的な考え方である。もちろん細かく見ればこの原理主義的な考え方にも課題はあるだろう。ただし少なくとも今の段階ではこれ以上に有効な考え方はない様に個人的には思え、そうである以上は企業は、特に経営者は、この考え方に則って活動するべきではないのかと思えてしまうのである。記事を読んでそのようなことを思ったのである。