トーキョーハーバー

コンサルティングの現場から

スタートアップの方法論に関する雑感

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スタートアップのコミュニティを見ていると、この世界には独自の手法が確立されるように感じられる。本エントリでは素人なりにこの手法に関する意見を述べていきたいと思う。なお私自身はスタートアップやVCで働いたことはないし、もちろん起業したこともない。(会社を設立したという意味ならあるが、これはほぼ登録だけの世界である。)またコンサルティングの文脈で新規事業支援なども行ったことはないため、本エントリの内容もあくまでも伝聞と想像の範囲内で書かれている思って欲しい。

 

スタートアップの世界で見かける用語の中には(関係者には当たり前であっても)外部から見ると独特に見えるものがある。例えばVCから資金調達する際には「ペイン」「プロダクト」「ビジネスモデル」「トラクション」などといった形で自分たちが実現しようとしている事業の説明をすると理解している。この中でも「ペイン」や「トラクション」などは大企業にいると(ネットの世界は別かもしれないが)あまり聞かない用語であるように聞こえる。(またこのような概念を入れて説明しないとVCは話を聞いてくれない、という話も聞く。)「ペイン」に関しては「大企業用語」では顧客ニーズという概念に包含されていると思うが、ニーズではなくペインと表現するのは後者の方が顧客にとってより差し迫った課題であり、従いビジネスに結びつきやすいためだと想像している。(他にも理由があるかもしれない。この辺りは詳しい方の意見を聞きたい。)「トラクション」はスタートアップコミュニティ独特であると思っている。直接的な意味は牽引力、推進力のことである本文脈ではどれだけ顧客獲得ができているのか、というような意味で用いられている。資金調達のプレゼンでは「本サービスの現時点のトラクションはXXXXです」などといった表現をしているようである。

 

また各資金調達ラウンドでもしっかりとしたスタートアップであれば「このラウンドではプロダクトのプロトタイプをローンチする」「このラウンドではローンチしたプロトタイプが顧客(数社)に受け入れられることを証明する」「このラウンドでは営業パートナーとしてXXXと組めないのかを検証する」などといった具合に明確に何をするのかが定義されている印象である。

 

言い換えると規律が効いた方法論になっているのである。これらはいずれもビジネスとしてば当たり前といえば当たり前ではあるが方法論として比較的体系だった形になっていると考えられ、これは(少なくとも日本では)ここ10-15年で生まれてきたように見える。少なくともも2001年のドットコムバブルの頃にはなかった、あるいはここまで普及していなかったのではないだろうか。

 

この要因は様々ではあろうがVCを中心としたスタートアップコミュニティのプロフェッショナル化が進んできたことは挙げられるのではないかと考えている。コンサルティング投資銀行、PEファームなどと同じように高度な手法がVCファームにも蓄積されそれがスタートアップ側にも伝播してきているのではないだろうか。また起業経験があるいわゆるシリアル・アントレプレナーと呼ばれる起業家たちも増えてきたため、方法論が確立されてきたことも挙げられるだろう。

 

最近では高度なテクノロジーをほとんど用いない(せいぜい自社ECサイトを用いる程度)小売や飲食といったスタートアップでも、このスタートアップ的な手法を用いて「テックっぽい」運営をし、従来よりもはるかに短期間で事業を拡大してきたスタートアップも散見される。これもひとつの解釈としてテクノロジー分野を中心に確立された方法論の有用性を傍証しているのではないかと私は考えている。

 

またPMF (Product Market Fit)という概念が用いられることも見方によってはこの方法論の有用性を間接的に示しているのではないかと考えている。PMFと書くと何だかとても高度な概念に聞こえるが、これは要するに「当該製品が受け入れられる市場があるのか?」という商売としては古典的な問いでありある意味当たり前の概念である。しかしこれらの概念がわざわざPMFという表現をされるのは、PMFが検証される前の段階にあるスタートアップであっても資金調達ができるため、調達後には必ず(商売としては当たり前であるが)PMFが検証されなければならない段階をくぐり抜ける必要があるため、このような用語が生まれたのだろう。このようにPMF検証前のスタートアップでも資金調達ができる理由を「VCのカネ余りによるものだ」「テックバブルだ」といって片付けることもできるかもしれないが(そしてその側面はあるように思える)、スタートアップの方法論が確立したためPMF検証前のスタートアップに投資をしてもリターンが見込めるようになったため、という側面もあるのではないかと考えている。

 

このようにスタートアップコミュニティで築かれた方法論は大企業にとっても学ぶところはあると考えている。もちろんこの方法論はあくまでもスタートアップのための方法論であるため、中には大企業が真似できないものもあるだろう。圧倒的な熱量・野心を持った個人がいることや上手くいけば莫大な経済的報酬が得られることが一般的であるスタートアップの世界と良くも悪くも大企業の勤め人が行う新規事業の違いは大きい。そのためこの方法論の中には大企業は参考にしない方がいいものも間違いなくあるだろう。しかしそれでも新規事業を中心に大いに学ぶところはあると思っている。

 

そんなことをスタートアップコミュニティにいる友人たちを見て思ったのである。