トーキョーハーバー

コンサルティングの現場から

東京モーターショーと経営課題

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先般、個人的な趣味で東京モーターショーを初めて訪れてみた。私自身は自動車にはほとんど関心がなく、また自動車業界も本業ではあまり縁がなく業界知見もほとんどないが、それでも素人なりに色々と考えさせられるイベントであったため、色々と思ったことを述べていきたい。(以下で述べることはあくまで東京モーターショーで見えたこと「のみ」からの推論であり論理遊びの類だと思っていただきたい。また個別企業名を挙げているが、これはいうまでもなく一個人としての本イベントから見えたことを述べているに過ぎず、特に批判したいわけではない。あくまでも印象論と推論である。)

 

今回は商用車と乗用車のブースは一通り回っただけであるが、それでも各社のブースを見ていると会社によって明確な違いがあった。最も優れていると(素人なりに)感じられたのは、メルセデスベンツ、レクサス、トヨタで次いでマツダ、逆に正直ダメだなと思えたのが日産、ホンダであった。

 

特にトヨタのブースからは明確なメッセージ性が感じられた。理由は(記憶する限り)一台も市販車は展示していなかったのである。ブースも白基調で未来的な映像を流し、様々な従来型でない自動車の展示をしておりCASEを全面に打ち出していることは明らかであった。私自身が感じられたメッセージは「ウチは従来の自動車もやりますがそれは皆さんも良く知っているでしょう。そんなのを今更案内するよりは我々が描く未来のクルマ社会のビジョンをお見せします。それがウチにとっては最も大事な経営課題なのです」といったものであった。また映像で出てくる人物も様々な人種の人が映っておりいわゆるグローバルカンパニーの雰囲気を醸し出されておりロゴを見なければどの国の企業かの識別は出来なかった。

 

一方のレクサスは市販車の展示を中心に行っていたが、どれもレクサスの中でもかなりのハイエンド車両を中心でありより高級なブランドイメージを構築しようとしているように感じられた。全体的にはトヨタの未来的なイメージというよりは重低音を流しており情緒に訴えている印象が強かった。また(個人的には好きではないが)レースクイーンの人数も多かった印象である。明らかに「もう一段」高級なブランドにしたいという意図が伝わったし全体的な世界観もあり、見ていて飽きなかった。

 

メルセデスベンツは流石、という印象であった。「我々は世界のハイエンド自動車の先端を走り、最高級の製品と体験を提供する」といった意志が伝わってきた。こちらも市販車の展示が中心であったが、メーターとカーナビが合致したシームレスディスプレイが大半の車種に採用されておりラグジュアリーブランドの王者、といった印象を与えていた。またカフェのようなものも提供しており、いわゆる「体験」も大事にするという姿勢が感じられた。

 

マツダは市販車の展示が中心であり上記3ブランドほどの明確な未来のビジョンは感じられなかったものの官能的な世界観は醸成されていた。同社が採択する共通のデザインコードに則ったモデルが展示されており、統一感が感じられ、またどのモデルもマツダが推している真紅のカラーモデルを中心に展示していたことも統一感が出ていた理由の一つであろう。少なくとも素人目には同社のブースからはコンセプトが感じられ魅力的に映ったのである。

 

一方でホンダと日産はビジョンもコンセプトもほとんど感じられず、単なる新作展示会に近い様子であった。強いて特徴を挙げるとホンダはやはり二輪へのこだわりが大きく二輪を全面に出す一方で、四輪に関してはファミリー向けにキャンプができるといった新製品を展示していたが、90年代のオデッセイから(失礼ながら)進化していないように見えたのである。

 

日産もほぼ新作展示会に近い印象である。また同社は救急車などの商用向けのブースと乗用車向けのブースが離れたところにあり見る方からすると同じロゴが違う会場であるために何だか濁った印象になってしまった。おそらくは異なる部門がそれぞれ実施したという事情なのだろうが、それでも同じブランドを掲げている以上、統一感を出すべきではないかと素朴に思えたのである。ホンダも日産ももちろんEVなどの展示もしていたもののトヨタほどのビジョンはなく「開発しているから展示しているだけ」のような印象であり、実現したいビジョンはもちろんコンセプトも見えなかった。

 

さて上記が主に印象に残ったことであるが、個人的にはこれらは単なる各社の展示方法の違いに留まらず経営の在り方を示しているように思えるのである。トヨタメルセデスベンツには明確に実現したいビジョンがあり、それが(あれだけ巨大な)組織の中に浸透しているといえるのである。一方で日産やホンダにはそのようなものがないように(東京モーターショーという限定された情報源だけからは)感じられた。少なくとも私が日産やホンダの社長であれば、あの展示会を見たら恥ずかしいと思っただろう。

 

もしも仮に昨年も似たような状況であったとし、ホンダや日産のシニアエグゼクティブがトヨタメルセデスベンツの展示と自社のそれを比較していたとする。そのようなことをしたにも関わらず今年もこのような展示をしていたのだとすると、論理的には(あくまでも論理的な推論である)①この展示で問題ないと考えている、または②問題はあると思っているがそれを解決できていない、かのどちらかであることになる。

 

前者であればそれはそれで一つの思想と考えることもできる。マツダのように小回りが効く規模でもないし、かといってCASEにアクセルを踏み切るつもりもないため新製品の展示を中心にする、という発想かもしれない。これは正解が今はあるわけではないが、10年後、20年後のことを考えると昨今のCASEの発展に鑑み、これでは著しく競争力を失う選択になってしなうのではないかと個人的には思えてしまうのである。もちろんもしかしたら言われているほどの大きな変化が自動車産業では起きないと考えているためにこのような選択をしているのかもしれない。

 

ただ個人的にはどちらかというと可能性としては②になっているのではないかと思う。私のような素人目で見ても明らかにトヨタ、レクサス、メルセデスベンツが頭抜けている中であの展示を見ると通常であれば危機意識は持つと考えられる。しかしそのような危機意識があっても近視眼的な「新作発表会」から脱却し、危機感を共有し、将来のビジョンを掲げて、それに基づいたオペレーションを作り込む(今回の場合は展示を作り込む)というのは強力な経営のリーダーシップが必要なのではないかと考えられる。そしてホンダそして日産にはそのようなリーダーシップを発揮できるシニアマネジメント、もっと言えば社長がいないのではないかという推論に(論理的には)辿り着いてしまうのである。

 

何回もこのブログで書いている通り、組織は原則として「昨日やったことを今日もやり明日もやる」仕組みになっており、そこに変化を起こすのは経営の仕事である。(ダイムラーが提唱した概念ではあるが) CASEという外部環境の著しい変化に直面している中では、当然自動車会社にも大きな変化が求められそれは経営が主導するべきことではあるが、東京モーターショーを見る限りは、経営としての取り組みは会社によって大きく差があるように感じられたのである。

 

そんなことを東京モーターショーを見て考えたのである。