トーキョーハーバー

コンサルティングの現場から

ビジネスにおける論理展開

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企業の売上高は市場規模×市場シェアに分解できる。(相応に大きく成熟した市場であれば)市場規模は外部環境であり、市場シェアは企業努力次第では左右できる内部環境である。売上高が過去変動していればそれは市場規模変動要因と市場シェア変動要因に分解することができ、同じ売上高成長であっても市場は大きく成長しており市場シェアはむしろ低下しているのとその逆では意味合いが全く異なる。

 

以上は極めて常識的なことであり事業戦略に少しでも興味があれば誰しもが聞いたことのある内容である。ところが自身が関わる事業を第三者的に考察しようとするとこのような当たり前の視点が想像以上に抜けがちである。より正確にはこの単純な構造を用いた論理展開が思っている以上に難しいのである。

 

より詳細に説明する。例えば年率5%で成長するある成熟市場においてある会社の売上高が2%しか成長しておらず市場シェアが数%pt低下していたとする。この事実「だけ」からは当該企業の事業競争力は強豪と比べて劣っていると論理的には言える。現実問題としてはもしもコンサルタントが社長に対して市場データのみを見て「御社の競争力は競合よりも劣っています」と発言しようものならかなりの確率で怒られることが予想されるため、そのようなことは一般には言わない。

 

しかしこれはあくまでも現実論の話である。問題解決の基本は今ある情報のみを用いて、かつそれらは全て真であるという前提の元で論理を構築するべきなのである。そのように考えるとやはり上記のデータ「だけ」からはやはり競合に比べて競争力が劣っているというのは論理的に正しいのであり、むしろ論理はそれを前提に展開するべきなのである。もし競争力が劣っているならば、それは製品の競争力が低いのかもしれないし、営業カバレッジ(量)が低いのかもしれないし、あるいは営業力が弱いのかもしれない(質)。あるいはそれらは全て問題がなく生産能力が律速条件になっているのかもしれない。いずれにせよ市場データから論理的に導出される「競争力が劣っている」という要因を特定するべきなのである。そしてその中で重要なのは今あるデータのみを用いてそれで論理を展開するべきなのである。

 

もちろんデータそのものは間違っていないが見ているデータの選び方が適切でないということも考えられる。例えば上記の例では当該企業が戦っている市場の中の特定のセグメントであるので、そのセグメントにおけるシェアと成長率を見なければならないという理屈は成り立つ。しかしそれならば当該セグメントでもう一度上記の市場データを見直せばいいだけである。

 

現実には先ほども述べた通り「市場シェアが落ちているから競争力が劣っている」と言ったならば多くの場合は「この年度はXXという特殊要因があった。この年度はXXという点を考慮しなければならない。」といった反論が返ってくる。これはこれで一理あるがそれでもなお市場シェアが落ちているという事実は変わらない。もしも当社にだけ「不幸な出来事」が起きているのだとするならば、それはリスクマネジメントが劣っているのかもしれない。いずれにせよシェアが落ちていればー特にそれが複数年続いているのであれば特殊要因を探すのではなく一旦は競争力が劣っているという前提に議論を進めるべきなのである。特にコンサルタントの立場であったとするならば、あくまでも全体感を持った論理展開にこだわるべきなのである。

 

論理展開の違う例をいくつか挙げる。例えばある企業の過去5年間の累積エコノミックプロフィットがマイナスであったとしたら、誰が何と言おうとコーポレートファイナンスの観点からは当該企業は「価値破壊」をしていたと言えるのである。どんなに製品が素晴らしく顧客が満足していたとしても、価値を創造していないどころか価値を破壊しているのでありそれは経営が機能していないと論理的には言えるのである。これもやはり論理的には正しい以上、それをどのように伝えるのかはともかくその前提で更に論理を展開するべきなのである。

 

別の例としては消費財メーカーがある小売チャネルでは相応の額売れているとし、別のチャネルには参入していなかったとする。その場合、やはりこの情報だけからは「当該製品はあるチャネルでは売れており、それはつまり消費者から一定の支持を受けていることのしょうめいであり競争力があることを示唆している。競争力がある以上、この製品を別のチャネルにも投入すれば売れる可能性が高い」というステートメントは論理的には導出できる。もちろんこの前提には二つのチャネルで消費者の性質や競争環境が大きくは変わらないというものが存在するし、それは検証が必要である。実際には最初のチャネルでは棚あたり日販10万円に対して、別のチャネルでは顧客特性・競争特性の差から9.5万円かもしれない。しかし最初の情報だけからは「これだけあるチャネルで売れているのだから別のチャネルに投入しても売れる」という理屈は成り立つのである。

 

ここで述べたような例はいずれも企業活動をかなり大きな括り、粒度で捉えている。一方で実際のオペレーションに携わっていると細部の重要性を痛感するため、この粒度での論理展開は細部を無視をした雑な議論に映る。またある種の感情的な反発も抱くことも多い。しかし経営的、あるいは戦略的な見地からは細部に入りすぎずにむしろこの粒度で捉えた方がより正しい議論ができることも多いのであり、それらに携わる人間であればその粒度での純度の高い論理構築に慣れるべきだしそれを意識するべきなのである。良質な論理を構築するためにはこのような意識が必要なのである。