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コンサルティングの現場から

事業戦略検討で陥りがちな失敗

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事業戦略を策定するときは市場環境を理解し、次に競争環境を把握し、更に自社の事業環境を整理し、上記を綜合した上で自社が取るべき行動を落とし込む、という流れが一般的とされている。(これはいわゆる3Cのフレームワークを用いている。)事業戦略検討のプロジェクトが立ち上がると上記の順にプロジェクトメンバーが各種調査を実施し最終的に自社の戦略を規定するのである。

 

これは一見論理的に正しいと思われるが個人的にはこれは極めて非効率なアプローチだと考えている。理由は市場・競合・自社を把握する目的がこの方法だと不明であることが多いのである。結果として膨大な調査を実施し市場・競合・自社の動向は精緻に理解できたものの結局のところ行動にいまいち結びつかない、といったことが起きがちである。特に市場・競合調査に関してはやろうと思えばいくらでも深掘りができるため気づくと調査をすること自体が目的となりがちなのである。

 

このような事態を避けるためにはまずは企業が取りうる行動を仮説的に考えその成立要件を洗い出し、それらを検証するという流れとするべきなのである。あくまでも企業の取りうる行動を基軸に物事を考えるべきなのである。このように行動を基軸に考えると案外、結局のところ企業が取れる行動はある程度限定されるため調査の大半は不要となるのである。そしてその行動が合理的であるための条件を検討するのである。

 

これは仮説思考といえばその通りだが仮説はあくまでも行動の仮説である点はいくら強調しても強調しきれない。そのために本ブログでも繰り返し述べている通り論点には行動に結びつく「べき」が入っている必要があるのである。論点に「べき」が入っているからこそその論点に対する解(含む仮説)もまた行動ベースになっているのである。言い換えると状態の仮説は行動に結びつかないとも表現することもできる。

 

例えばある成熟市場でこれまで緩やかに縮小してきて今後もその傾向が続くことが自明の市場があったとする。そこで業界3位の企業があったとする。この環境下で当該企業が取れる行動はM&Aを一旦除いたとすると、①コストリーダーシップを発揮し徹底的にコストを削りシェアを維持して利益を増やす、②規模を追うことは諦め高付加価値・高利益率のセグメントに絞った事業を展開する、③当該企業の経営資源が活用できる隣接市場に参入する、といった戦略が論理的には考えられる。

 

①の戦略が成り立つためには、まだ当社にはコスト削減の余地が論理的にあることを示さなければならない。例えばもし当該事業が原価の大半が何らかのコモディティ資源が占めていたとすると多少のオペレーションの工夫はあるにせよほぼ規模で決まってしまうため、業界3位の当社にはこの戦略は成立し得ない。それでもこの戦略を狙うならばM&Aにより業界1位の規模を目指さなければならないのである。反対に規模以外のオペレーショナル変数が多数存在しその組み合わせ次第では規模が小さくても利益を出せる事業特性であればこの戦略は成立する。これが①の戦略の成立要件でありその検証が必要である。

 

②の戦略が成り立つためには、そもそもそのようなセグメントが存在し、かつそれが当社にとって十分な規模であり、かつその中で当社がシェアを取れる理屈が成り立つ必要がある。もしも当社がどちらかというとボリュームゾーンのプレーヤーという顧客認知があり、かつスイッチングには一定の年数が掛かるのであればシェアを取れることはかなり難しいといっていいだろう。

 

③の戦略が成り立つためには、②の成立要件と同じように、そもそもそのような隣接市場が存在しかつそこで当社がシェアを取れる合理的な理由が必要である。

 

このように考えると仮説的な行動(つまり戦略)とその成立要件を予め洗い出すと戦略の検証の精度ははるかに増すのである。少なくとも漫然と市場・競合・自社を調査するよりは圧倒的に効率的である。もちろん仮説は仮説であり外れることもある。しかしこのようなアプローチを採ることにより検討初日から市場、競合、自社の仮説ではなく、戦略の落とし所が見えているのは極めて重要だろう。

 

事業戦略を検討する際にはぜひこのようなアプローチを採ってみるといいだろう。