トーキョーハーバー

コンサルティングの現場から

とんかつとオペレーションと演出

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目黒駅から徒歩3分くらいのところに「とんかつ とんき」という名のとんかつ屋がある。創業1939年の老舗であり1967年に現在の店舗に移転したようである。

 

この店舗は飲食ビジネスを見る上で非常に考えさせられる。

 

当店は基本的にはロースかつ定食 (1,900円)、ヒレかつ定食 (1,900円)、串かつ定食 (1,400円)の3品しかないが、いつ訪れても行列になっている。席は一階のカウンター席(35席程度)と二階席があるが多くのお客はカウンター席を希望するため一階により長い行列ができている。

 

なぜ顧客がカウンター席を希望するのかというとカウンター越しに厨房が見え、厨房での様子を見るの自体がこの魅力となっているためである。厨房は長方形の店内のほぼ中央に配置されており、カウンターがU字に厨房を囲みさらにカウンターの周りをウェイティング用の席がぐるっと囲む方式となっており、厨房が白色の無垢の木目の床と相まって檜舞台を彷彿とさせる造りとなっている。(この辺りは言葉で説明するよりも画像を参考にされたい。)実際に多少ネットで調べる限りは店舗もそれを明確に意識して作っている模様である。

 

実際にウェイティング席やカウンター越しに淡い照明と檜舞台を彷彿とさせる厨房の中で職人達が黙々と作業をしている様子を見ていると日本の伝統的な劇を観ているような、なんとも言えない不思議な雰囲気になる。大半のお客が待ち時間が短い二階席ではなく一階のカウンター席を選ぶのはこれを見る(観る)ためなのである。

 

一方でこの店のとんかつの味はというと、正直なところ店の魅力ほどはない(と思える)のである。もちろん美味しくはある。しっかりとした肉にサクサクした衣が付いており文句なく美味しい。ただし個人的には同じ値段で他に同じくらいかもっと美味しい店はあると思っているし、また待ち時間を考えると個人的には割に合わないと思えるのである。実際に周囲に訊いても似たような感想であった。

 

ただしこの店のプレゼンテーションは突出して魅力的でありそれは一流であり、それが(もちろん美味しさと相まって)この店が何十年もお客を惹きつけている理由であると思っている。言い換えるとこの店は「劇場型飲食店」であるといえるのである。ただ劇場型といってもさまざまな方法があり、このタイプの店の多くはわざわざ調理には必ずしも必要ではない演出をしている場合が多い。しかしこの店はあくまでも調理に必要なオペレーションのみに注力し、それを磨き込むことで本来は演出にならないオペレーションを一つの価値にまで高めているところは面白いと考えている(以前に述べたピザ屋やバーのシェイクなども同様である。)そしてわざとらしく演出をするよりもあくまでもオペレーションを磨き込んでそれが演出なるようなものはやはりはるかに深みがあり飽きないのである。

 

とんかつ とんきを見ていると、飲食店には劇場型というものが存在し、かつオペレーションを演出にまで高めることで一つの価値を作ることができる、ということを本店は身を持って証明しているように思えるのである。