トーキョーハーバー

コンサルティングの現場から

業界知見と機能知見

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本ブログの読者(あるコンサルティングファームのアソシエイト)から少し訊かれたことに対する自分なりの考え。

 

以前にあるプロフェッショナルファームの若手から「プロジェクトを始まるにあたって業界の知見を身につけるためには何をするべきか?(もちろん日経テレコンや各種IR資料、業界紙などには目を通すことは基本動作として実施しているという前提。)」といった旨の質問を受けた。

 

確かに特にジュニアなうちは担当する業界がプロジェクトによって変わるためプロジェクト遂行にあたってまずは業界知見を身に付けることは必須である。流石にプリンシパル以降になると概ね担当業界は絞られるがそれでも新しい業界を担当することも少なくない。(シニアパートナーですら場合によっては新しい業界のプロジェクトを担当することもある。)そのためにまずは上記で述べたような最低限の常識を身に付けることは基本動作として実施することは必須である。

 

ただしそれなりの年数、コンサルティングに従事した経験からすると業界知見がプロジェクトの付加価値になることは案外少ない。もちろんプライベートエクイティなどの投資会社のビジネスデューデリジェンスや事業会社が全く新しい業界や地域に新規参入する場合などは業界知見がそのまま価値になる。

 

しかしそのようなプロジェクトはファームにもよるが割合としては少なく、多くの場合は企業が手がけている領域かその周辺領域に関するコンサルティングを行うため業界知見そのものはクライアント企業の方がある場合が多いのである。もちろんある業界にほぼ特化したシニアパートナーであれば、クライアント企業と同等かそれ以上に業界知見を持っておりそれが付加価値につながる場合もなくはないが思っているよりもそのような場合は少ない。そのようなシニアパートナーでない限り、いくら時間を使って業界知見を身に付けたところでそれが付加価値につながることはほぼない。結局のところ業界知見でクライアント企業を上回ることはまずないしそれは期待されていないのである。

 

私はコンサルティングの付加価値の源泉は業界知見ではなく機能知見であると思っている。つまり事業戦略立案、オペレーション改善、マーケティング、組織設計、M&Aといった特定のテーマ(機能)であれば、クライアント企業よりもコンサルティングファームの方が当該テーマが経営上重要であり、かつそれを解決したという経験に富んでいる(べきである)。これは法人間での比較であったが個人間、つまりクライアント企業の経営者やワーキングレベルのメンバーとコンサルタントでもやはり後者の方が機能軸での経験は積んでいることが多い。このように書くとクライアント企業の機能部門の方が機能知見はあるのではないかと?と思うかもしれな。例えば仮にマーケティングがお題でありそのオペレーションを担っている部門とプロジェクトを実施したとすると、一見マーケティングの知見そのものはクライアント企業の方がオペレーションを担っているため豊富かもしれないが、オペレーションではなく経営課題として問題解決することであればコンサルティングファームの方が詳しいことが大半である。特に他社での当該経営課題の解決のアプローチや最新の知見などはコンサルティングファームの方が構造的に詳しくなる。

 

このようにコンサルティングの付加価値の源泉は業界知見ではなく機能知見にあったとすると、業界知見は一般論としての機能知見をクライアント企業の文脈に、つまりは個別論に落とし込むために必要であると考えることができる。いくら機能知見があったとしてもそれをクライアント企業が実行できる形に落とし込むためには価値がないのであり、それをするためには業界知見が必要であるといえるだろう。上記で述べたクライアントと同等かそれ以上の業界知見のあるシニアパートナーも、結局のところ単に業界に詳しいのではなく当該業界における戦略立案・実行やオペレーション改善に詳しいのである。単に業界に詳しいだけではそれは単なる辞書でありあまり役に立たない。必ず機能知見とセットにならなければならないのである。コンサルタントは業界軸が強い人と機能軸が強い人がいるが、前者の人も何か突出して特定の機能に詳しい訳ではないが、ある特定の業界において活用できる機能知見をいくつかもっているのであり、あくまでも機能知見が根底にはある。

 

もちろん最初に述べた通り最低限の業界知見は身につけるべきである。しかし情報収集やお勉強に溺れずに、あくまでもその目的は機能知見をクライアント企業が直面する課題の個別解に転換するために必要なのであり、業界知見そのものを付加価値と考えるべきである。