トーキョーハーバー

コンサルティングの現場から

事業会社とPEのデューデリジェンスの違い

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M&Aにおいては買収者が被買収者を査定する。これはデューデリジェンス(DD)と呼ばれビジネス、法務、会計、IT、人事などの視点で行われ、場合によっては環境の観点でも行われる。その中でもビジネスの視点は買収価格はもちろんのこと、そもそもの買収の意思決定にも大きく影響を及ぼすためビジネスデューデリジェンス(BDD)は各種DDの中でも最も大事だと思っている。

 

半年くらい前のエントリでも述べた通りBDDには「そもそもこの会社を買うべきか?」と「(買収する場合)いくらでこの会社を買うべきか?」という二つの似て非なる論点があり、前者の方が重要であると述べたがこの論点を検討する際に買収者が事業会社とプライベートエクイティ(PE)と呼ばれる投資会社では多少視点が異なっていると思っている。(因みに余談ではあるが、ヘッジファンドのような上場株投資でも長期投資の会社は“Is this a good company?”と”Is this a cheap company?”という二つの質問を訊かれ前者が重視されることが多い。)一言でいうとPEは利益成長の理屈に重きを置く一方で事業会社は対象会社の競争力とシナジーを重視する。(もちろんこれは程度問題でありどちらも重要である。)

 

PEの場合は借入をして買収し各種バリューアップ活動を行い3-5年後に売却して一定のリターンが出すことが買収の目的であるためBDDをコンサルティングファームを活用して行うような投資の場合、リターンの主な源泉は利益成長にあることが多い。(もちろん利益成長ではなくレバレッジの効果、運転資金の圧縮、非事業資産の売却などがリターンの源泉であることもある。)そのためBDDにおいて利益成長を評価することが重要な論点となり、これはどのようなドライバー(要因)がどれだけ効くのか、ということを解明する必要がある。もちろん、その中には上記で事業会社が重視すると述べた事業競争力の評価も必要になる。例えば利益を市場規模×シェア×利益率とした場合、将来のシェアや利益率がどうなるかは事業競争力の理解がない限りできない。しかしそれ以外にも市場の動向の理解も必要である。直接の顧客の動向、B2Bであればその先の最終顧客の動向、そして更にはマクロ的な環境などの事業競争力以外の評価も必要であり場合によってはそちらの評価の方が重要な場合もある。またこれを数字に落とし込むことも重要である。利益成長のドライバーの特定はもちろんのこと、それらが利益成長にどれだけ寄与するのかを定量的に評価することをPEはBDDにおいては重視する。これは言い換えると利益成長のメカニズムを解明しているといえる。

 

事業会社の買収におけるシナジーと概念的には同じバリューアップの機会に関してもPEはもちろん評価するし場合によってはこれが投資ストーリーの根幹をなすときも無くはないが、感覚的にはこれは不確定性が高くよほど自明な一部のコスト施策ではない限り、どちらかというとバリューアップは「おまけ」、つまりアップサイドケースに入れられることが多い印象である。

 

一方で事業会社の場合はPEと異なり一定期間で売却をすることは前提としない。そのため利益成長という観点ではPEほどは重きを置かず、かわりに対象会社の事業上の競争力とシナジーを重視する。(もちろんBDDの二つ目の論点「いくらで買収するべきか?」に答えるためには当然ながら利益成長の評価は必要である。)事業会社が買収する目的は将来売却することで投資リターンを出すことではなく、事業会社のなんらかの戦略的意図を満たすことにあり、そしてそれは多くの場合、対象会社の事業の競争力を獲得することとシナジーを実現することにあるためである。極端に書けば、自動車会社は外食企業の買収価格がどんなに安くても戦略に合致しないため買うことはないが、PEであれば安ければ買う。そのため事業会社は戦略との整合性を重視するのであり、そのため事業の競争力の理解に重きをおく。(あくまでも相対論でありPEは事業の競争力を見ないと言いたいのではない。)

 

事業の競争力の評価は少し違う見方をすると利益成長を評価するためには将来を見る必要があるのに対し、事業の競争力はどちらかというと過去の実績の評価になる。(どちらかというと、と書いたのは利益成長を評価するためにはそもそも事業の競争力を理解しそのためには過去の実績も見なければならないし、事業の競争力も「今後も続くと想定するべきか?」という論点は生じるため、将来を見る必要はある。あくまでも程度問題である。)反対に事業会社の場合はPEほどはマクロ環境や当該市場環境の将来予測は重視しない場合が多い。これは事業会社からすると買収する事業は多くの場合、自分たちの本業かその周辺であることが多いため、わざわざ調べるまでもないという点が挙げられる。また事業会社からすると「飛び地」であったとしても、PEほどはガチガチに利益成長と市場環境を定量的に結びつけることはなく定性的な評価にとどまることが多い。

 

もう一つ事業会社がBDDにおいて重視する観点がシナジーである。上場会社を買収するのであれば一般的には時価総額に20-40%程度のプレミアムを載せて買収することが多いがこのプレミアムを正当化する理由はシナジーである。つまり対象会社が単独ではできないことを買収者と一緒になることで実現できるため、買収者はプレミアムを正当化できるのである。このシナジーが大きいほど理論上は高い買収価格を提示できるため、買収の実現性が高まる。そのためBDDにおいてもこのシナジーがどれだけ見込むべきかは大きな論点となる。

 

このシナジーは研究開発、購買、製造、営業、間接部門など特定のビジネスプロセスで協業したり統合したりすることで実現されることが多いため、シナジーの評価をするためには対象会社のビジネスプロセスの理解が必要である。そのためこれも(PEが重視した利益成長とは異なり)将来予想というよりは実績理解の側面が大きい。

 

同じ買収という文脈でビジネスを査定するにしてもこれまで述べてきた通りPEと事業会社では視点がやや異なるため、BDDをする際にはクライアントの特性によって力点の置き方を変えるべきなのである。