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コンサルティングの現場から

ピザビジネスの四方山話

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ピザとピザビジネスに対する愛の詩。

 

私はピザが好きである。といっても特定のピザのことである。ドミノピザやピザーラなどの宅配ピザはもう何年も食べていないし、イタリアンでもピザを自分から頼むことは絶対にない。私が好きなのはPizza Studio Tamaki (六本木店、東麻布店)、Pizza Strada、そしてPizza Savoy 麻布十番店のピザである。これらはいずれも同じ玉城氏というピザ職人が関わっている店であり、しばらく前は食べログのピザ部門で最も高い評価であった。同氏はPizza Savoy 麻布十番店、三宿店で雇われ店長を務め、その後、投資家を募りミシュラン ビブグルマンを獲得したPizza Stradaを2011年に立ち上げ、2017年にオーナーとしても独立してPizza Studio Tamaki 東麻布店を立ち上げ(立ち上げ初年にやはりミシュラン ビブグルマンを獲得)、更に2018年には2号店を六本木に立ち上げている。私は原則として同氏が焼くピザが東京で最も美味しいと思っている。なお少し余談ではあるが東京の、あるいは全国の人気の多くにはピザ屋は玉城氏の師匠である柿沼氏が、あるいはその弟子たちや孫弟子たちが関わっている。

 

これらのピザの味は原則として3つで決まる。一つ目は火力である。上記のピザ屋はいずれも例外なく石窯を用いている。決してガス釜や電気釜ではダメなのである。理由は単純に火力が足りないからである。火力の強い釜でピザを焼くと短期間(概ね60秒)で焼き上がり生地は独特のサクサクした食感が得られる。これがガス釜や電気釜だと火力が足りないためより長い時間、釜に入るために生地が硬くなってしまい食感が悪くなってしまう。石釜は単純に言えば比熱が大きいため熱しにくく冷めにくい。これは鉄鋼メーカーの高炉と同じで一度熱してしまえば夜に店を釜を閉め翌日昼にまた釜を開け薪を入れると特に火を入れなくても勝手に燃える程度には熱を貯められる。しかし逆に一度冷めてしまうと営業日の前日から薪を入れて温める必要がある。そのため石釜を用いる店は連休を取りにくい。これ以外にもビジネスの観点からは石釜はなにかと扱いにくい。まず釜自体が高い。概ね3-400万円程度掛かり、また日本では2社くらいしか石釜を作れる業者はいない。また薪を用いるため煙突(ダクト)が必要であり、またそのダクトは周囲のビルに当たらないようにするために屋上階までダクトを伸ばす必要があるためその分の費用が掛かる。このように書くと、では最上階に構えればいいのではないかと思うかもしれないが、石釜は1トン程度するためにげんそくとしては1階にしか店舗を構えることができない。(言い換えると2階以上にあるピザ屋の味は期待できない。)更に撤去コストも高い。そのため石釜を入れるのは生半可な覚悟ではできないのである。

 

二つ目は生地のレシピである。柿沼氏の(孫)弟子たちの店は原則として柿沼氏が作った生地のレシピを独自に改良して用いているため基本的な食感や味は似ている。これは小麦粉・水・イースト菌などの配合とその発酵方法にノウハウがある。発酵方法と述べたのはピザの生地は大体24-36時間程度、温度と湿度をワインセラーのようなドゥーコンディショナーと呼ばれる装置で制御しながら発酵させる必要がある。また発酵させる際には、生地を仕込む際の天気(湿度と温度)を見て、微妙にレシピと発酵過程の設定を変える必要があるのでありこれには一定のノウハウが求められる。

 

三つ目はピザ職人の焼く腕である。先にも述べた通り石釜の火力は強いため、ピザは60秒程度しか釜に入れない。(チーズや生卵などで水分が多く釜が冷めやすい場合はもう数秒長い。)そのため5秒焼く時間がズレるとそれは10%近く焼き時間が変わるため大きく食感が異なる。また薪は石釜の片面にしか置かれないため釜の温度は均一でないためにピザを釜の中で回して焼き加減をコントロールする必要がある。加えて店内がピークタイムを迎えていると、同時に3-5枚のピザを釜の中で焼く必要がありますますその難易度は増す。(恐らく都内の石釜のピザ屋で5枚同時焼きをやっているのは玉城氏しか知る限りいない。)そのためピザ職人も一定期間の修行が必要なのである。

 

これら三つのピザの味を決める要素を全て高度なレベルで提供するのが上記の店であると思っている。そのためお客としては上記の店以外のピザ屋は私の選択肢には挙がらない。一方、ビジネスの面からはどうであろうか?想像の通り外食としてはかなり儲かる。第一の理由は原価がとてつもなく安いためである。これらのピザ屋ではピザ一枚の値段は概ね1500-2000円程度であるが材料費は驚異的に安い。特にチーズが入らずにトマトソースとニンニクスライスしか用いないマリナーラに関しては(ただしとても美味しい)、突出して安い。(私は外食の素人であり特にコンサルティングをしているわけではないが流石に材料費比率はここで書くのは控えておく。)大半の読者が想像するよりも安いだろう。

 

それに加えてもう二つ強みがある。一つはテイクアウトが出来ること、もう一つは(意外なことに)調理時間が短いことが挙げられる。(ただしテイクアウトをすると蒸気が箱の中に充満しピザがベタつくためにオススメしない。)調理時間が短いのは焼いている時間が60秒で、また準備する時間がまた60秒程度なため、(ピークタイムでなければ)お客が前菜を食べ終わりそうなタイミングでピザを準備して、お客が食べ終わった瞬間にピザを出せるため効率が高い。特にPizza Savoyは前菜は作り置きのものだけでピザが2種類しかないためその効率は極めて高い。これらは空間的、時間的に店舗を拡張をしていると言える。特にファストフード系の外食は昼と夜のピーク時にいかに稼ぐのかということがキモのビジネスであるため、テイクアウトと調理時間の短縮は必須の事業特性といってもいいだろう。例えばたこ焼きとお好み焼き。材料はほぼ同じだが、たこ焼きやテイクアウトができ、また作り置きもある程度できるため効率がいいが、お好み焼きは多くの店ではそれらができない。同様にカレー屋はこれら2要件を満たしているが、ラーメンは汁があるためテイクアウトが難しく、また麺を茹でるため効率が悪い。食べる時間が25分だとしても、カレーのようにご飯をよそってルーを掛けて1分で提供できるカレーと麺を茹でて盛り付けをするのに5分掛かるのでは回転が10%以上異なるためピーク時間では大きな影響がある。

 

外食は参入障壁が低いために素人に近い人や企業が開業することも多い。中には趣味の延長でやっている人もいたりする。しかしいくらその料理が好きであったとしても事業として立ち上げるならば、その事業特性を冷静な目で見極め、儲かりやすい事業を構築する必要があるのである。