トーキョーハーバー

コンサルティングの現場から

非合理的な競合への対処方法

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昨日、高品質なサービスを価格に反映できていない結果、利益、そして企業価値を最大化できていないのではないかという旨のエントリを書いた。これは新幹線のアイスクリームの例に限らず、日本の多くの企業で過剰品質(=品質を利益に反映できていない)になっているよう体感的には思える。そしてこれは結局のところ利益に対する意識が希薄なこと、言い換えると利益のレンズからオペレーションを管理するガバナンス体制が弱いことがに起因していると考えられる。実際、日本の企業の競争力を資本市場の観点から述べた伊藤レポートでも日本の企業のROEは米国企業に比べて17%pt低く、それは利益率が7%pt低くなっていることが最大の理由であると指摘されている。日本企業の収益性が低いのは厳然たる事実であり、その理由はさまざまだろうが、上述の利益追求型ガバナンスになっていない可能性は高いだろう。

 

さてここからはモデルケースを用いて考えを展開する。プレーヤーの数が安定したある国内市場における競争を考えてみる。もし仮に競合が「利益意識が希薄」であり過剰品質、つまり顧客満足度は上昇するが利益を損なうようなサービスを提供するような会社であったとする。そしてシェアが均衡している状況で、より高品質なサービスを(利益を犠牲に)これまでと同じ価格で提供してきた場合、どのように対応するべきだろうか?論理的には①何もしない、②同様のサービスを同じ値段で提供する、③同様のサービスを(利益を損なわないために)より高い値段で提供する、の三つのパターンが考えられる。

 

①の何もしない場合、シェアを失い、売上と利益が減る可能性がある。②の場合はシェアは維持されるが、高品質なサービスに付随するコスト上昇分だけ利益が損なわれる可能性がある。③の場合は利益率は変わらないがシェアを失い、利益額を落とす可能性がある。つまりいずれにせよ利益が損なわれる可能性が高い。つまり競合は非合理的な行動をした結果、自社だけでなく業界全体の企業価値を下げているのである。しかしここで思考停止してはならない。いくつか考えることがある。そもそも当該高品質なサービスが本当に顧客の購買に影響するのかを考える必要がある。前回のアイスクリームの例であれば、新幹線の中という閉鎖空間においてはプラスチックの袋がなかろうが消費量に変化しない可能性が高かった。当該市場においても何らかの理由により、顧客満足度は高まっても顧客の購買行動が変化しない可能性があるかもしれない。従ってまずはそれを検討する必要がある。もしそのような場合は①の何もしない、が合理的な行動になるはずだ。次に消費量が上昇する場合でも、もしも需要喚起、つまりパイを大きくするサービスであれば、自社の売上高は減らない。その場合は自社がサービスレベル向上に必要なコストと追加的な得られる売上高と利益を天秤に掛け、それがプラスならば最適な価格で参入するべきであろう。次に需要喚起ではなくシェアの変動、つまりパイは大きくならずパイの切り方が変わる場合を考える。この場合は最初に述べた通り、①〜③いずれの行動をとっても利益は損なわれる。この場合は、やはり①〜③をそれぞれシミュレーションをして利益最大化のための最適サービスレベルと価格を検討する必要がある。(なお一般的には多少のシェアを損なっても価格を上げることが利益を最大化する上で最適なことが多い。)いうまでもないことではあるが、利益意識の低い競合が非合理的な行動をした結果として、自社の事業全体の収益性が資本コストを下回るのならば事業から撤退し、他の事業に資金を向けるべきである。

 

ここまでは純粋な論理展開であったが現実にはより高品質なサービスがどれだけの顧客満足度に効き、どれだけのシェア変動に寄与し、どれだけの売上高と利益に貢献するかは検証することは非常に難しい。また正確にやろうと思えば消費者調査をやるくらいしか考えられないが、それでもその調査の精度は必ずしも高くなく(特に新サービスであれば消費者はそれが実際にどのようなものなのか想像ができない)、またそもそもその調査コストがペイするかも疑わしい。しかしそうであったとしてもやはり一定の検証は必要であろう。「ざっくり計算」でも十分に検証できることが多い。特に最も検証の難しい購買量の変化は過程を置かずに結果指標とするといいだろう。つまり「XXのコストをかけてこのサービスを提供した場合、利益を維持するためには少なくとも消費量はYY増える必要がある」と考え、YYがこれまでの経験から現実的なものかを考えるべきなのである。この手法を使えば、かなりの場合、判断できる。

 

企業価値向上を追求するならば、例え非合理的な行動をする企業が現れても決して思考停止をしてはならない。検討の費用対効果や実現性を考慮しながら、冷静にその影響をベストエフォートで検証し、企業価値最大化のための行動を取るべきなのである。