トーキョーハーバー

コンサルティングの現場から

事業戦略入門

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現在の仕事では様々な企業の戦略策定に携わっているが、恥ずかしいことに最近まで戦略とは何かを理解できていなかったし、今でも自信を持って理解しているかと問われると正直自信がない。しかし曲がりなりにもそれなりの年数を様々な企業の戦略について考えるようになって以前よりは格段に理解は深まってきた。本エントリでは自分なりの戦略の理解を述べていきたい。


戦略を考える上では戦国時代の城を攻める例が分かりやすい。ある城を攻め落とすときに、兵糧攻めにするのか、正門突破をするのか、裏門から攻めるのか、夜襲をするのか、火攻めにするのか、を決めるのが戦略であると理解している。この程度のざっくりした粒度で十分なのである。具体的にいつ、どんな武器を使って、どんな戦い方をするかは戦略の議論ではない(これらは一般的に戦術と呼ばれるものである)。結局のところ、「どこに」「どんな資源を」「どうやって投入するか」を「簡潔に」述べられればそれで十分なのである。「簡潔に」とは数行程度の分量である。特に「どこに」が大事である。(戦略とは絞り込みである、とか戦略とは捨てることである、と言い切っている「流派」もいる。)


ある産業機器を手掛けるするA社の戦略を例に挙げる。その業界は技術的な変化から製品群を大きく3つに分かれつつあった。

(1) ほとんど投資は求められないが衰退する製品群

(2) 長期的には減少するが当面は需要が続きこれまでよりは大きな規模の投資が求められる製品群

(3) 大きく成長するがこれまでとは違う規模の投資やパートナーシップが必要な製品群


A社は伝統的に(2)の製品群を手掛けていたために、(2)を獲得するのと同じ体制で漫然と(1)から(3)までを狙っていた。漫然と、と述べたのは具体的には、経営として狙うべき製品群の方針がなかったために現場の営業がこれまでの関係から見えてきた(1)から(3)までのすべての顧客の需要を見つけそれを獲得しようとしていた。しかし(1)では過剰投資となり収益性が低くなり、逆に(2)では投資額の少ないが故に失注が増え、(3)に至ってはA社としては投資を増やしているつもりでも業界水準からは著しく低い水準で全く受注できない状況であった(従い(3)に関わる工数・投資は無駄に終わっていた)。このような状況の中でA社は(1)~(3)のどれを狙うべきかを市場環境、競争環境から決める必要があった。つまり戦略を決めるべきであったのである。


このように書くと自明に見えるかもしれないが実際にはこれを決めるのも非常に困難であった。特に戦略と戦術の議論が混ざることが多かった。具体的には(1)から(3)のどの製品群を狙うべきなのかという戦略の議論をしている際に、すぐにそれぞれの製品群において具体的にどんなスペックの製品が必要で、どんな具体的な顧客の需要があるのか、という議論に陥っていたことがその典型である。それは確かに日々のオペレーションにおいてこれらは重要であるが、それは戦略という文脈ではこれらは無視できる粒度の議論である。これは先ほどの城の例で言えば、火攻めにするか、正面突破をするかを議論しているときに、火攻めにする際の弓矢の種類や正面突破する場合の部隊の陣形や槍の突き方を議論しているようなものである。実際に城を攻めるときには武器の種類や陣形は当然考える必要があることではあるが、そもそもどうやって城を攻めるかが決まっていない中では無意味な議論であり、またそれが決まってからも総大将(経営者)ではない層が決めることである。実際のオペレーションでははるかに細かい粒度の検討が求められるため、日々のオペレーションを担っている人たちからすると戦略の議論はあまりにも粒度が粗すぎるように映る。しかし日々のオペレーションを担っているからこそ戦略不在に気付きにくくなってしまうのである。またオペレーションと戦略の議論は分けて考えるべきなのである。


別の企業でも似た例はあった。ある輸出企業で同じ製品を様々な仕向け地に輸出しており、また事業環境として需要が供給を上回っていたため事業の制約は生産にあった。また仕向け地によっては需給バランスが著しく異なっていたために、同じ製品でも単価が異なり結果的に利益率が大きな差が存在していた。ところがこのような環境でも当該企業は仕向け地ごとの製品の割り当ては過去を踏襲して行っていたため隠れた機会損失があった。つまり本来ならば利益率の低い仕向け地の割り当てを減らして代わりに高い地域では営業を強化して割り当てを増やすべきであったが、そのような戦略をとっていなかった。これもどこに、どんな資源を、どのように投入するかが明確ではなかったのである。戦略的には下記4点が取り組むべきことであった。

①高収益の向け先に生産キャパシティと製品を割り当てる

②高収益の向け先に割り当てを増やした分の顧客を獲得するために営業を強化

③低収益の向け先は選択的にその地域の中では重要な顧客に絞り込む

④生産キャパシティの拡張


事業戦略は一見当たり前に見えることも多い。あまりに当たり前であり、むしろ戦略の先にある戦術が(特に日々のオペレーションを担っている人は)気になる傾向がある。しかし現実にはこの一見当たり前のことが決まっていないことも多いことは理解するべきである。そして戦略が不在の場合は規律を持ってオペレーションと戦略を分離して議論するべきなのである。戦略とは「ざっくりさ」したものであることを受け入れるべきだろう。


経営戦略には相応の歴史があり奥が深く、わずか数百文字で表せるものではないことは重々理解している。ここで書いたことも、あくまでコンサルティングの現場からの一つの(浅い)理解に過ぎないことには注意していただきたい。