トーキョーハーバー

コンサルティングの現場から

スキル君たち

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さまざまな場面でビジネススキルなる単語を目にする。また自分が働いているファームにでも若手を話しているとよく「どんなスキルを身につけるべきか?」「このプロジェクトでどんなスキルが身につくか?」といった質問を受ける。また採用の場面でも同様である。しかし私はビジネススキルに関して考えることは時間の無駄であり、むしろ自身のキャリアにとって有害ですらあると思っている。またほぼ例外なくスキルを(必要以上に)気にする「スキル君」達はプロフェッショナルとして大成しないと思っている。


まずキャリア選択という観点ではスキルを軸に考えるのはナンセンスである。キャリアは何をやりたいのかを軸に考えるべきであり、スキルを目的にするべきではない。スキルとはやりたいことを追求した結果、副産物的に生じたものでありやりたいことを達成するための一つの手段である。あくまでやりたいことを追求するべきである。経営コンサルティングであれば、経営に対するアドバイザリーを提供することでクライアント企業の価値創造に貢献することであり、投資銀行部門であれば、株式・債券を通じた資金調達の支援とM&Aの助言である。これらをやりたいのであればコンサルティングIBDを目指すべきであり、決して論理的思考や分かりやすいコミュニケーション、コーポレートファイナンスの知識を獲得するために目指すべきものではない。(もちろんこれらは実際にコンサルティングIBDの仕事で求められる能力のほんの一部である。)


私自身、面接をそれなりの件数担当しているが「御社でXXというスキルを身に付けたい」と言われると正直、がっかりする。そもそも自分たちは教育機関ではないしそんな余裕もない。またそのように言われると「ではそのスキルが身に付いたら辞めるのですか?」と訊きたくなる(もちろん実際に訊くことない)。欲しい人材はあくまで自分たちが目指していること・やっている仕事を一緒にやりたいと言ってくれる人なのである。

 

また一人のプロフェッショナルとしてもスキルを重視するのは問題だ。そもそもスキルと呼ばれているものはジュニアに求められる能力を指すことが多い。スキルの定義次第ではあるが一般にスキルと呼ばれているものは以下を満たしていることが多い。

・訓練によって獲得可能

・能力の要件が定義可能

そしてこういった条件を満たす能力はジュニアでは求められることが多いが、シニアの仕事をこのように定義することは難しい。経営コンサルティングであれば同じようなお題を検討するにあたってもパートナーによって大きくその芸風やアプローチは異なる。これらの能力を言語で定義することは難しく、また訓練で獲得することも難しい。(この辺りはベストセラー「ストーリーとしての競争戦略」の著書である楠木氏が述べているスキルとセンスの違いは参考になる。)

https://logmi.jp/business/articles/275050

もちろん上記の定義を離れ、「新規事業を構築する能力」「企業価値を向上させる能力」「大型プロジェクトを受注できる能力」「経営者の判断を助言できる能力」もスキルの一つだと言い切ってしまえばそれまでだが、これらはスキルという単語の一般的な使われ方に鑑みるとやや離れているといっても問題ないだろう。シニアな仕事はスキルではないその人独自の「何か」(能力)が求められる。


つまりスキル獲得を目指すことはジュニアワークをうまくなることを目指していることをと同義になる。しかし少なくともプロフェッショナルファームではアソシエイトを採用するのは、その人に恒久的にジュニアワークを担当してもらいたいのではなくいずれパートナーなどのシニアな立場になってシニアな仕事をしてくれることを願って採用しているし、またそのような人を目指す人たち・なり得る人たちに入社してもらいたいと思っている。そのため「スキルを身に付けたい」と言っている人は、極めて低い目線しかなく、ジュニアなマインドセットしか持っていないことを示しており、その時点で「イケてない」人材であることを示唆しているのである。


ここまでは「スキル君」たちをやや否定的に述べたが、「スキル君」たちが大勢いるのもある意味で仕方ないと思っている。今の30代半ば以下の人たちは基本的に経済成長を見たことがない世代であり、親世代が多かれ少なかれ信頼してきた伝統的大企業の多くが低迷してきた時代に育っている。また絶対的な規模はまだ小さいとはいえ強烈な個性を持った起業家が立ち上げた新興企業の存在感が増してきた時代でもある。そのため「(自分たちより上の世代と異なり)会社に頼ってはいけない」「一人でも食べていける実力が必要だ」という問題意識を持っている人たちが特に高学歴な人たちを中心に増えてきていると考えられる。そして大企業に頼らない仕事の仕方(生き方)をするためにはスキルが必要だ、という考え方が生まれているように見受けられる。


これらは個人的には健全な危機感だと思っているが、これまで述べてきた理由からスキル獲得に走るのは短絡的だろう。職業人としてもっと高い目線を持つべきだ。