トーキョーハーバー

コンサルティングの現場から

女性の働き方に関する雑感 ー 解決策編

前回エントリで述べた通り、企業には女性の就業率を上げるためインセンティブは(論理モデル上は)ないため、企業単独でこの問題を解決することは期待できないと述べた。そのため単独企業を超えた取り組みが必要であり、それは結局のところ政府の仕事だと思っている。その際には私は価値観の醸成とガイドラインの設定だと思っている。アナロジーとしてはクールビズが挙げられる。今でこそ比較的「固い」とされる金融機関のような会社であっても夏は勿論のこと冬でもノーネクタイを見かけることが多くなり、また外部の人と会うときであってもノーネクタイの人も見かけるようになった。これはある時から大本営方針のごとく政府がノーネクタイを推奨し、さらには震災の後の電力不足によりその機運はさらに高まったことが大きいと思っている。震災があった年の夏にネクタイをすることは少し大げさに書けば「非国民」である、と見られるようになった感すらある。これは政府主導である種の価値観を醸成したと捉えることはできるだろう。(最近では労働時間の削減も似たような様相を呈している。)

 

この考えを応用し、まずは政府主導で「男性も育休・時短を取得し、女性と均等に子育てをするべきである」という大本営方針を打ち出す。これは一度では効果がなく少なくとも5年は言い続ける必要がある。その上で大企業に対しては男女別の育休・時短の取得率を開示することを義務化する。(開示コストそのものは殆ど負担にならないはずである。)そのうえで政府は男女別の育休・時短の取得率の望ましい水準を公表するのである。これはあくまで政府の意向であり、企業はそれに従う義務はなくまた特に罰則などは設けない。

 

この施策の肝は開示義務を除いて特に企業に対しては強制せずに、価値観を醸成することにある。このような価値観が一旦醸成されるとさまざまな形で男性の育休・時短取得率の低い企業に企業に対するプレッシャーは掛かることは容易に想像できる。まず新聞や雑誌などで「男性育休取得率ワーストランキング」のようなものが作られるだろう。またESG投資などの一環として取得率の低い企業への投資は控えられるようになるかもしれない。就職・転職活動でも企業体質の把握の一環として見られるかもしれない。また取得率の低い企業の経営者はメディアなどに露出する際などに「どのように上げる予定か?」といった質問を受けるようになるだろう。(質問する方もその意義を個人としては信じていなかったとしても社会の価値感の観点から質問せざるを得ないようになる場合もあるだろう。)「恥の文化」とも言われる日本ではこのような社会的圧力は非常に有効であると考えられる。これが常態化すると徐々に実際の企業の男性社員に対する期待値も変わってくるだろう。重要なのは、社会が「男性も育休・時短を取得し、女性と均等に子育てをするべきである」という価値観も大義名分を持つようになることである。

 

「女性問題」は男性問題であり、その解決は個別企業の努力だけでなく社会全体の価値観を変える必要があるだろう。そしてそのためには政府主導である種の価値観・大義名分を作っていく必要があるのではないだろうか。

 

 

女性の働き方に関する雑感 ー 論理的考察編

一部ネット上である総合商社における子供を持つ女性総合職の待遇が話題となっている。内容そのものは追ってはいないが、このような女性の働き方に関する問題(以下では女性問題)でつくづく思うのは、「女性問題は男性問題」でありそこに構造的な難しさがある、ということである。

 

一般論として大半の企業の「女性問題」の施策は女性のフレックスタイムや育休や時短など、あくまで子供を持っている女性が働きやすくなることを目的としており、子供を持つ男性社員に対しては特に子育てをしやすくなるようなことは期待していないように見える。単純化して以下のモデルケースを考える。これはそこまで無理な前提ではないだろう。
●夫婦は異なる会社でそれぞれ働いている
●仕事のアウトプットは能力かける労働時間で決まる
●男性・女性の能力の分布は同じである
●女性社員は子供を持ったら一定の確率で辞めて子育てに専念する
●時短などを提供すると辞める確率が低くなる
●男性社員は子供を持っても仕事を辞めることはない

 

この世界においては女性社員が出産したら、貴重な人材を失わないために企業は合理的に考えて女性が働きやすい環境を整えるだろう。そうすれば退職されない確率が高まる。発想としては「辞められるよりは時短でも残って貰った方が得である」ということになる。一方で男性社員に子供が産まれても特段に子育てをしやすい環境を整えるインセンティブはないだろう。いずれにせよ辞めることはないため期待値のベースラインはこれまでと同様に働くことになる。その結果、もしも時短などを使われたら(モデル上は)アウトプットが減少するのであり、インセンティブ上は時短を取られないように公式な制度以外の方法を用いて仕向けることになる。そして子育ては他社で働く男性社員の妻が他社の制度を使って担ってもらうことを期待する。そうすれば他社のアウトプットは落ちるが自社のアウトプットは減らない。企業にとって他社のアウトプットが落ちても知ったことではないのである。結果として全ての企業が合理的に動いた結果、子育てに関連する負荷は全て女性側が会社の制度を用いて吸収することになる。(現実的にはそれに加えて女性が睡眠時間を削ることになりがちであるが、それは上記の前提でだけでは成り立たない。)少なくともモデル上はこれでは論理的に考えて男女が同じように仕事をする社会が訪れることはない。

 

これは純粋なモデルから得られる結論だが現実でもそれに近いことが起きていると考えられる。子供を持つ女性が企業で男性と同じくらい働くためには、論理的に考えて男性が女性と同じくらい子育て・家事をする必要がある。つまり女性問題を解決するためには男性がいかに子育てをするようにするべきかを考えることである。もちろん制度上は男性も女性と同じように時短なども取れる仕組みになっているだろう。しかし先ほどのモデル上の企業のインセンティブを考えてもそれは難しく、また現実問題としては男性社員に対しては時短を取ることは滅多になく結局のところ女性社員に皺寄せがいくのである。これは言い換えると企業が各社で努力するだけでは解決不能な問題と言えるだろう。つまり企業努力を超えた仕組みが必要なのである。

 

次のエントリでは自分なりの解の方向性を述べる。

 

ピザビジネスの四方山話

ピザとピザビジネスに対する愛の詩。

 

私はピザが好きである。といっても特定のピザのことである。ドミノピザやピザーラなどの宅配ピザはもう何年も食べていないし、イタリアンでもピザを自分から頼むことは絶対にない。私が好きなのはPizza Studio Tamaki (六本木店、東麻布店)、Pizza Strada、そしてPizza Savoy 麻布十番店のピザである。これらはいずれも同じ玉城氏というピザ職人が関わっている店であり、しばらく前は食べログのピザ部門で最も高い評価であった。同氏はPizza Savoy 麻布十番店、三宿店で雇われ店長を務め、その後、投資家を募りミシュラン ビブグルマンを獲得したPizza Stradaを2011年に立ち上げ、2017年にオーナーとしても独立してPizza Studio Tamaki 東麻布店を立ち上げ(立ち上げ初年にやはりミシュラン ビブグルマンを獲得)、更に2018年には2号店を六本木に立ち上げている。私は原則として同氏が焼くピザが東京で最も美味しいと思っている。なお少し余談ではあるが東京の、あるいは全国の人気の多くにはピザ屋は玉城氏の師匠である柿沼氏が、あるいはその弟子たちや孫弟子たちが関わっている。

 

これらのピザの味は原則として3つで決まる。一つ目は火力である。上記のピザ屋はいずれも例外なく石窯を用いている。決してガス釜や電気釜ではダメなのである。理由は単純に火力が足りないからである。火力の強い釜でピザを焼くと短期間(概ね60秒)で焼き上がり生地は独特のサクサクした食感が得られる。これがガス釜や電気釜だと火力が足りないためより長い時間、釜に入るために生地が硬くなってしまい食感が悪くなってしまう。石釜は単純に言えば比熱が大きいため熱しにくく冷めにくい。これは鉄鋼メーカーの高炉と同じで一度熱してしまえば夜に店を釜を閉め翌日昼にまた釜を開け薪を入れると特に火を入れなくても勝手に燃える程度には熱を貯められる。しかし逆に一度冷めてしまうと営業日の前日から薪を入れて温める必要がある。そのため石釜を用いる店は連休を取りにくい。これ以外にもビジネスの観点からは石釜はなにかと扱いにくい。まず釜自体が高い。概ね3-400万円程度掛かり、また日本では2社くらいしか石釜を作れる業者はいない。また薪を用いるため煙突(ダクト)が必要であり、またそのダクトは周囲のビルに当たらないようにするために屋上階までダクトを伸ばす必要があるためその分の費用が掛かる。このように書くと、では最上階に構えればいいのではないかと思うかもしれないが、石釜は1トン程度するためにげんそくとしては1階にしか店舗を構えることができない。(言い換えると2階以上にあるピザ屋の味は期待できない。)更に撤去コストも高い。そのため石釜を入れるのは生半可な覚悟ではできないのである。

 

二つ目は生地のレシピである。柿沼氏の(孫)弟子たちの店は原則として柿沼氏が作った生地のレシピを独自に改良して用いているため基本的な食感や味は似ている。これは小麦粉・水・イースト菌などの配合とその発酵方法にノウハウがある。発酵方法と述べたのはピザの生地は大体24-36時間程度、温度と湿度をワインセラーのようなドゥーコンディショナーと呼ばれる装置で制御しながら発酵させる必要がある。また発酵させる際には、生地を仕込む際の天気(湿度と温度)を見て、微妙にレシピと発酵過程の設定を変える必要があるのでありこれには一定のノウハウが求められる。

 

三つ目はピザ職人の焼く腕である。先にも述べた通り石釜の火力は強いため、ピザは60秒程度しか釜に入れない。(チーズや生卵などで水分が多く釜が冷めやすい場合はもう数秒長い。)そのため5秒焼く時間がズレるとそれは10%近く焼き時間が変わるため大きく食感が異なる。また薪は石釜の片面にしか置かれないため釜の温度は均一でないためにピザを釜の中で回して焼き加減をコントロールする必要がある。加えて店内がピークタイムを迎えていると、同時に3-5枚のピザを釜の中で焼く必要がありますますその難易度は増す。(恐らく都内の石釜のピザ屋で5枚同時焼きをやっているのは玉城氏しか知る限りいない。)そのためピザ職人も一定期間の修行が必要なのである。

 

これら三つのピザの味を決める要素を全て高度なレベルで提供するのが上記の店であると思っている。そのためお客としては上記の店以外のピザ屋は私の選択肢には挙がらない。一方、ビジネスの面からはどうであろうか?想像の通り外食としてはかなり儲かる。第一の理由は原価がとてつもなく安いためである。これらのピザ屋ではピザ一枚の値段は概ね1500-2000円程度であるが材料費は驚異的に安い。特にチーズが入らずにトマトソースとニンニクスライスしか用いないマリナーラに関しては(ただしとても美味しい)、突出して安い。(私は外食の素人であり特にコンサルティングをしているわけではないが流石に材料費比率はここで書くのは控えておく。)大半の読者が想像するよりも安いだろう。

 

それに加えてもう二つ強みがある。一つはテイクアウトが出来ること、もう一つは(意外なことに)調理時間が短いことが挙げられる。(ただしテイクアウトをすると蒸気が箱の中に充満しピザがベタつくためにオススメしない。)調理時間が短いのは焼いている時間が60秒で、また準備する時間がまた60秒程度なため、(ピークタイムでなければ)お客が前菜を食べ終わりそうなタイミングでピザを準備して、お客が食べ終わった瞬間にピザを出せるため効率が高い。特にPizza Savoyは前菜は作り置きのものだけでピザが2種類しかないためその効率は極めて高い。これらは空間的、時間的に店舗を拡張をしていると言える。特にファストフード系の外食は昼と夜のピーク時にいかに稼ぐのかということがキモのビジネスであるため、テイクアウトと調理時間の短縮は必須の事業特性といってもいいだろう。例えばたこ焼きとお好み焼き。材料はほぼ同じだが、たこ焼きやテイクアウトができ、また作り置きもある程度できるため効率がいいが、お好み焼きは多くの店ではそれらができない。同様にカレー屋はこれら2要件を満たしているが、ラーメンは汁があるためテイクアウトが難しく、また麺を茹でるため効率が悪い。食べる時間が25分だとしても、カレーのようにご飯をよそってルーを掛けて1分で提供できるカレーと麺を茹でて盛り付けをするのに5分掛かるのでは回転が10%以上異なるためピーク時間では大きな影響がある。

 

外食は参入障壁が低いために素人に近い人や企業が開業することも多い。中には趣味の延長でやっている人もいたりする。しかしいくらその料理が好きであったとしても事業として立ち上げるならば、その事業特性を冷静な目で見極め、儲かりやすい事業を構築する必要があるのである。

 

一言が経営課題を解く

ある有名なコンサルタントが90年代にある大手通信会社の営業支援のプロジェクトを担当したらしい。そのプロジェクトの目的は顧客をある通信方式から別の通信方式に移行させることを促進させることであった。この通信会社としてはなるべく早めに旧式の通信方式の利用者を無くし、新しい通信方式に移行させることで運用コストが大きく削減したかったが、遅々としてその移行が進まなかったという背景がある。このコンサルタントは様々な分析をした結果、移行の大半がテレフォンオペレーターを通じて行われていることが判明した。そして結果として、オペレーターのマニュアルを「XXX方式『が』いいですか?」から「XXX方式『で』いいですか?」と一文字だけ変えたところ、劇的に移行率が上がり大きくコスト削減に貢献できたとのことである。わずか「が」と「で」の一文字だけの違いであるが、これがとてつもなく大きな差を生んだのである。

 

テレフォンオペレーターのマニュアルというと一見、現場マターであり経営マターではないと思われるが、しかしその中のわずかな変更が経営にとって大きな意味合いを持つときがあるのである。細部をバカにしてはならないのである。

 

中途アソシエイト組に関して

最近は以前にも書いた通り大分、新卒入社組のパートナーが各社、増えた印象がある。一方で以前よりも中途でアソシエイトとして入社した人たちが苦戦している印象もある。そこで自分なりに中途でアソシエイトとして入社した人たちにとって参考になることを書いてみたいと思っている。(なお、中途アソシエイト組が苦戦してる理由は、新卒からコンサルティングが10年位前から大分、一般的な選択肢となったため、能力的にコンサルに合う人は新卒時点で入社している人たちが増えているためと推測している。)

 

まずは入りたいプロジェクトに入れなくても腐らずにアサインされたプロジェクトには全力を出しつつ、めげずに「社内就職活動」に力を入れることである。このように述べている背景としてアサインメントをする側からすると中途アソシエイト1年目は一般論としては「割高」なため、中途アソシエイトは入りたいプロジェクトに入りにくいのである。結局のところ、プロジェクトにチャージされる金額が入社して半年のアソシエイトと新卒から数年アナリストをやって昇進したアソシエイトではどう考えても後者の方がはるかにパフォーマンスが高いため、ほぼ迷わずに後者を選びがちである。よほど前職の経験がプロジェクトのお題とドンピシャで無い限りは中途アソシエイトの前職での経験は直接的にはあまり役には立たないのである。そのため、構造的に中途アソシエイトは人気のプロジェクトには入りにくい。しかしそこで腐った態度でアサインされたプロジェクトに臨むと(信じられないかもしれないが、結構そのような人は居たりする)、当たり前だがパフォームせずに負の循環が回り始める。また「社内就職活動」をするときもあまり選り好みせずに、前向きな姿勢を維持するべきである。もちろん希望を伝えることは大事であるが、上記に述べた通り中途アソシエイト一年目、特に前半は仕事を相対的に選びにくい立場にあることは理解して、選り好みをせずにどの仕事に対しても前向きな姿勢を取るべきだろう。(これも当たり前のようで案外、そうではない態度の人も多い。)

 

ハードスキルという面でも少し注意が必要である。(以前から述べているがいわゆる「スキル」というものを過度に意識するべきではないと思っていることはここでも予め述べておく。)分析(エクセル)、スライド作成(パワーポイント)といったいわゆるハードスキルに関しては「それらを得意になろう」と思うよりは「アソシエイトとしての最低限のスキル、そして将来マネージャーになったときに品質担保できるだけのスキルを身につける」という発想を中途アソシエイト組は持つべきだと一般論としては思っている。そもそもこのようなものは経営コンサルティングの本質ではないため原則としては瑣末なことであるが、とはいえ様々な場面でハードスキルがプロジェクトのデリバリーの質を大きく上げることもあるし、また次のプロジェクトに繋がること、あるいは提案で活きることもある。しかし、このあたりの領域に関してはやはり20代前半からやってきた新卒アナリスト組の方が概して得意なことが多い。そのため無理にそこを伸ばして得意技にしようとするよりも、最低限を身につけると割り切った方がいいだろう。ただしマネージャーになったときはチームメンバーの品質担保が必要となるため、アソシエイトのうちからも「品質担保という観点からはどのような点に気をつけるべきか」という視点でハードスキルを考えるべきだろう。

 

また一般的には中途アソシエイトは「少し長目にアソシエイトの経験を積んでからマネージャーになった方がいい。経験がないとやったことのないお題のプロジェクトをマネージャーとしてやると辛い」と言われる。これはこれで理解できるが、違う発想もあると思っている。具体的にはなるべく早くマネージャーロールをできるようになることを目指しマネージャーの期間を長くすることを目指す、というものである。根底にある考えは、プロジェクトをアソシエイトとして経験するのとマネージャーとして経験するのでは学べるものが異なるため、やったことのないお題のプロジェクトをやって苦労するなら、どうせならマネージャーとして経験した方が後に繋がる学びが大きい、というものである。これはどちらも一長一短があり、またそもそも早くマネージャーロールをできるかは自由意志の問題だけではないため、考えすぎても詮無い部分はあるが、このような発想があることは頭の片隅に置いておいても損はないだろう。

 

最後にマインドセットに関してである。この仕事はジュニアなうちに「踏ん張って考える」ということを体得することが大事だと思っており、そのため一定期間、具体的には1.5年から2年程度は精神的に仕事に集中する期間が必要だと思っている(これは必ずしも労働時間の問題ではない)。一方で、20代前半に比べてアラサー以降は、そもそも集中力が落ち、プライベートでも家族なども居たりして人生の複雑性が増しており、また交友関係も広がるため、なかなか仕事だけに集中しにくいことが多い。しかしだからこそ最初の1-2年は上記を意識し、自分を律する姿勢が必要だろう。

 

中途アソシエイトは独自の苦労は存在する。そのためこの職業に就いたならば最初のうちは少しだけファームにおける働き方を意識してもいいかもしれない。

将来予測の前提に関して

当たり前の話ではあるが、将来を予測するのは難しい。例えば大型投資をして期待されるリターンが投資基準を満たすか否かを検討すると場合を考えてみる。このとき投資判断の方法の一つに将来にわたって生み出すキャッシュフローを現在価値に換算したものと投資額のどちらが大きいか、といった評価をすることがある。その評価をする上での肝は言うまでもなく、どのようなキャッシュフローを予測することであるが、それは将来予想であるため簡単ではないし、また100%の精度を担保することは不可能である。

 

このようなときにやりがちなのは悲観・現実・楽観ケースなどを作成し悲観ケースでも投資額を現在価値が上回る、といった場合に投資を実行する、といった発想をする。もちろんこれはこのアプローチで合理的であるが、この場合、各ケースの前提の変数の置き方が恣意的でないことを意識する必要がある。しかし前提の置き方が変数の数と各変数の幅の組み合わせがいくらでもあるため、結果としてケースの数はいくらでも増やせてしまう。

 

そのような事態を避けるために私はこのような悲観・現実・楽観ケースといった概念的には離散的な組み合わせではなく、連続的な組み合わせが望ましいと考えている。これは前提の中で特に重要な二変数を選択し、その組み合わせをマトリクス上で表現する方法である。例えば横軸に当該事業の売上高成長率、縦軸に売上高キャッシュフロー比率を取り、各軸で想定される最大値・最小値で範囲を規定してマトリクスを作成し、マトリクスのマス目に当該事業の現在価値を書くのである。(もちろんこの縦軸、横軸は理想的には二つの要素で全体を捉えることが望ましい。例えば市場規模と市場シェア、あるいは総台数と稼働率、といった具合である。)そうするとどのような組み合わせのときには現在価値が投資額を上回り、どんな組み合わせの時は成り立たないのかという、組み合わせが離散的な形ではなく、連続的な地平の中で示すことができるのである。(細かいが現在価値が投資額を上回るセルに色を付けると視覚的になり直感的になる。)

 

ここで伝えたいことは言うまでもなくこのマトリクスの作り方といったテクニカルな話ではない。重要なのは将来予測をしてなんらかの行動を起こす際に、「この行動は将来このようになるから成り立ちます」といった形で単発の予測をするのではなく、「この行動を正当化するためにはこのような範囲の前提が成り立つ必要です」といった前提を広がりの持った形であぶり出す、といった発想がある、ということである。このように発想を転換することで、将来予測の前提の幅が浮かび上がり、これによって「何に賭けているのか?」がより明確になるのである。また検証も最大値最小値を見れば良くなるため、検証もやりやすくなるのである。

 

マネージャーは音を聴く

昨日、マネージャーロールになったときのチームメンバーに対する仕事の依頼の仕方を書いた。それに関連して、その進捗確認のコツを少し書こうと思う。

 

私はチームメンバーが近くで仕事をしていたら例えその人の仕事の途中成果を一切見なくても仕事が捗っているか否かは判断できると思っている。それは音で判断できるからである。より具体的にはこのチームメンバーの作業している音を聴くと正しいことをやっているのか、あるいは間違った方向に作業を進めているのかがわかるのである。

 

理由は簡単で作用している種類によって作業音は変わるため、音を聴いていればこちらが仕事を依頼して合意した手順に則って進めているかがわかるのである。例えばメールを書いている時は一定のリズムでかちゃかちゃとしたキーボード音がする。アウトプットイメージの詳細を考えている時は紙とペンの音がするし、デスクトップリサーチをしている時はマウスの音と時折、短いキーボード音がする。エクセルを書いている時は短い時間のキーボード音が断続的に続くし、パワーポイントを作成している時はマウスとキーボード音が交互に続く。

 

例えばあるスライドを作る作業を依頼をしたら、作業は大きくアウトプットイメージの規定、データ収集、分析、スライド作成といった手順となる。そのため本来ならば紙とペンの音が聞こえた後に、リサーチチームに依頼するためのメールお音が続き、次いで本人によるデスクトップリサーチの音、そしてそのあとはエクセルを回す分析作業、そして最後にスライドに落とし込むパワーポイント作業となる。従い、もし作業開始と同時にパワーポイントを作り始める音が聞こえたり、エクセルを回し始める音が聞こえたら明らかにアウトプットイメージを定義せずに作業している可能性が高く、私の脳内には黄色信号が点灯する。その場合は早めに担当者に「今どのような状況か?どんな作業をしているのか?何か困ったことはないか?」などを訊くようにしている。

 

また5分以上手を一切動かすに一切音がしなかったらそれもまた危険である。本人は「考えている」と主張するが、思考も紙とペンなりホワイトボードなりテキストエディタを用いて行うものであり、(おそらく大半の人は)5分以上脳内だけで手を動かすに思考することはできないと私は思っている。論点思考をせずに単にボケっとしているだけの可能性が極めて高い。

 

マネージャーはチームメンバーの作業音に耳を傾けて進捗を理解するべきなのである。

 

マネージャーロールに関して

先日、マネージャーロールを最近やり始めた同僚から「チームメンバーに仕事を振るにはどのようにするべきか?」といった相談を受けた。細かく作業単位まで落とし込んでから振ると、担当者は「作業屋」感が出てモチベーションが下がるし、一方でざっくりと振ると十分な品質の成果物が出ずに結局手直しをする、ということであった。これは典型的なマネージャーが直面する課題の一つだと思っている。そこで以下では自分なりの考えを述べていきたい。

 

まず最初に心構えとして「仕事を振る」という単語は絶対にするべきではないと思っているし、私はそのような表現はしないようにしている。根底に持つべき思想は、マネージャーはあくまで役割でありヒエラルキーはないと考えるべきである。(以前にも書いたが、マネージャーの仕事は人ではなく仕事をマネージするのである。)そのため一見細かい言葉尻に見えるかもしれないが、仕事は「振る」ものではなく「依頼する」ものというべきである。依頼であればより対等な表現となる。

 

これはやや抽象的な話であったが、より具体的には私は仕事の依頼するにあたっては必ず下記の6点は伝えるようにしている。
●仕事の背景
●仕事の目的
●仕事の成果物イメージ
●アプローチ
●期限
●目安の時間

 

どれも一見当たり前に思えるかもしれないが、いくつかのコツがある。まず期限とは似て非なる目安の時間がある。この背景にある考え方として、特に若手はモチベーションが高く真面目なため「無駄に頑張ってしまう」ことがある。つまり本来は15分探してなければ諦めて代替案を一から考えるべきところを何時間も時間をかけてしまったり、あるいは数行のテキストで十分なものに対して数十枚のスライドを書こうとしてしまったりすることがある。それを避けるためにも、期限とは別に掛かる時間を大まかに伝えるべきである。

 

ここで重要なのはどんなに仕事ができる人であっても必ずこの6点はカバーすることにしている。必ずである。ただしその説明の粒度は依頼する相手の実力に応じて変えるのである。もしも実力のある人であれば一言づつしか説明しないし、逆にかなりジュニアな人であれば一つ一つを丁寧に相手に反応を見ながら説明するべきである。ただいずれにせよ、必ず平仄を合わせるためにこの6点はカバーするべきなのである。

 

また冒頭の作業屋vs品質担保問題に関しては結局のところ「成果物のイメージ」のコミュニケーションでコントロールするしかないと思っている。当たり前ではあるが、実力が不明な人、あるいは心配な人に対しては一緒に議論して成果物イメージを紙やホワイトボードを使って丁寧にすり合わせるべきである。その際のコツとしては仮に自分に答えがあったとしてもそれはあまり前面には押し出さずに、仮説は持ちながらもあくまでも相手と議論して決めることで相手への納得度も増して作業屋感は薄れると思っている。

 

また成果物のイメージとアプローチに関してはマネージャーが具体的なイメージを持っているのは当然としても、それは初期的なものであり、相手にも頼るべきだと思っている。特にアプローチなどは担当者の方が入手可能なデータなどに詳しい場合も多いので、あるいは単純に相手の方が得意な領域であることもあるため、マネージャーはアプローチと成果物のイメージの仮説を持っていてもあくまでもそれは仮説であり、相手の方が優れたアイディアを持っているかもしれないということは常に意識するべきである。

 

色々と書いたがマネージャーロールを務めるにあたっては上記のようなことは意識しておいてもいいと思っている。

 

情報の解釈に価値がある

ファクトベースコンサルティングは現代のコンサルティングの基本中の基本であり、とにかくファクトベースに論理を展開することは重要である。ファクトベースなんて当たり前の最初は思えたが実際にこの仕事をしばらくやってみると思っている以上にファクトベースでない議論は多く、またそもそもその重要性、あるいはその強さが認識されていないというのが実感である。案外、単純なファクトを見せるだけでも思いのほかシニアクライアントとの議論が盛り上がることも多いのである。そのためファクトベースであることの重要性はいくら強調してもしきれないのである。

 

しかし私はファクトベース以上にそのファクトの解釈の仕方、示唆出し、意味合い出しが重要であると思っている。例えば以前に行ったプロジェクトでも報告書の大半はクライアントが持っているファクトであり、またそのファクトが記載された資料をシニアクライアントも持っていたが、このプロジェクトは圧倒的にクライアントから感謝されリピートの依頼もその後、受けている。結局、この報告書の価値は記載されているファクトそのものではなく、プロジェクトの論点に沿った形でファクトから行動に繋がる示唆を出していったことにあるのである。特にファクトが多すぎてそもそもどこに着目すればいいのかわかりにくかったり、出てきた様々な示唆をどうやって行動につなげるのかは、それなりに慣れが必要だろう。もちろんこれはコンサルティングに限らずに多くの仕事で当てはまるだろう。

 

情報の解釈の価値・重要性は意識してみるといいだろう。

 

仕込みと熟成

私には一定の「熟成期間」が必要な性質の思考が存在すると思っている。論理的には、原理主義的には、思考は常に論点を設定してサブ論点に分解して仮説を考えてそれを検証するというプロセスを辿るが、中にはだらだらと考えなければならないようなものもあると思っている。次の3年間はどんなテーマで仕事に取り組むべきか、この会社の本質的な競争力は何かといったことを考えたり、何らかのテーマで自分なりの知見を構築しようとしたりするときは、他の仕事をしたり日常生活をしたりしながらも頭の片隅で薄らぼんやりと考えるべきであると思っている。1時間専用の時間を取って原理主義的に考えても腹落ちのしない、浅い考えしか構築できない場合が多いのである。そのために「熟成期間」が必要なのである。

 

そのようなアプローチが適した思考に関しては重要なのはとにかく早めに「仕込む」ことだと思っている。つまり少し時間をかけて(といっても30分くらい)自分なりの問題意識や考えを「ぼんやり」とまずはまとめるのである。これを私は仕込み作業と呼んでいる。一旦、考えを仕込むとあとは普段の生活を送りながら思考を熟成させることができる。そして、そこからまたしばらくしてもう一度、時間を取って考えると思考が熟成し深まったものが出来上がることが多い。

 

熟成が必要な思考に関しては早めに仕込みが必要なのである。